「久生十蘭全集」第2巻(三一書房)を図書館で借りてきて読んでいます。
久生十蘭て誰? という人のために→
久生十蘭‐Wikipedia松岡正剛氏による久生の長編「魔都」のレビュー→
松岡正剛の千夜千冊『魔都』久生十蘭 現代教養文庫の久生十蘭の文庫本5冊、朝日文庫の「十字街」などを7,8年前に血迷って処分してしまいました。全集第2巻は戦後に書かれた短編を集めたもの。久しぶりに読む十蘭、やはり抜群に面白いです。
三一書房の全集のうち「黒い手帳」「母子像」「鈴木主人」「魔都」「地底獣国」等の代表作、有名作を集めた1巻じゃなく2巻を借りたのは「春雪」をまず読みたかったからです。
知人の娘の結婚披露宴に友人の伊沢と出席した池田は〈神宮参道をヨチヨチ歩いている七五三の子供の花嫁姿のようで、ふざけているのだとしか思えない〉新婦の姿を見て、戦争中に亡くした自分の姪、柚子なら〈もっと立派にやり終わすだろう、美しさも優しさも段違いだ〉と憤る。
柚子の思い出を披露宴の間回想していた池田が〈ふと、我にかえると、いつの間にかデザート皿が出ていて、みなの視線がうながすようにこちらへむいている、忘れていた……伊沢の次に弔辞を述べるはずだったと、〉・・・・・・
なんと祝いの席で新婦のお悔やみの言葉をしゃべり始めてしまう。途中で気づいてごまかしたものの、あとで伊沢に〈名スピーチだったよ。弔辞と祝辞のハギ合せなんてえのは、ちょっとないからな〉とからかわれる。
この場面、何回読んでもオモシロ過ぎです。この後話は大森海岸の俘虜収容所(→
こちらを参考にして下さい)のカナダ人俘虜と柚子の〈文通したこともなければ、話をしたこともない。もちろん、手を握ったなんてこともない。おそらく、おなじ平面に立ったことさえなかったろう〉という、世の純愛ブーム(笑)とやらが裸足で逃げ出すような一途な恋の顛末となり、小説の神様、じゃなかった(これは志賀直哉でした)小説の魔術師という異名に恥じない技巧を凝らして語られます。
全集第2巻の他の収録作品は、名作として名高い「湖畔」「予言」、殿様のふぐりが腫れ上がって大騒動になる爆笑「玉取物語」や「無月物語」「奥の海」「うすゆき抄」などの時代物、「春雪」と同じく戦争に翻弄された男女を描いた「西林図」「黄泉から」、得意の漂流、遭難、苦難の旅もの「新西遊記」「ボニン島物語」など多種多様。電話で話す女のモノローグという体裁の「姦(かしまし)」は女性一人称の語りを得意としたほぼ同時代の太宰治も真っ青の上手さです。
女性一人称といえば三一書房の全集第3巻所収の長編「だいこん」は橋本治「桃尻娘」を30年先取りしたというべき終戦当時の女子の会話体が・・・おっと、話がとりとめなくなってきました・・・腰を据えて久生十蘭を再読したくなってきた最近のくまぞうです。
参考情報:来年には新たな全集が刊行されるそうです(→
久生十蘭オフィシャルサイト準備委員会)。価格がやたら高い本が多い国書刊行会からです。1冊いくらになることやら・・・揃えられるかなあ。
10月6日に専修大学神田校舎で十蘭に関するトークショーがあるそうです→
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