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日本音楽史の忘却の彼方からよみがえれ:菅原明朗「交響楽ホ調」に続き、本名徹次指揮、オーケストラ・ニッポニカ「菅原明朗とその周辺」(アルケミスタ・レコーズ)所収の菅原明朗作曲「
交響楽ホ調」について書いてみます。(アルケミスタ・レコーズのサイト中に
片山杜秀氏の詳細な解説があるので参考にして下さい)
第1楽章、ソナタ形式の第1主題が格調高く現れます。古典派的でけっこう地味な感じ。このあたり初めて聞いたときは「ちょっと退屈?」と思ったりもしましたが何の何の。噛めば噛むほど味の出るスルメ音楽だということがやがて分かってくるのです。第2主題の提示部を過ぎ、旋律がさまざまに装飾されていく手際にだんだん引き込まれてきます。第1主題の再現部からの盛り上がり、凄過ぎ。終結部へかけて目いっぱい鳴り響くオーケストラのなんという迫力! シンバルクラッシュがばんばん、身がよじれそうになる官能的な弦楽。曲の最初の方とは打って変った派手なサウンド、でも格調は失われません。やるだけやった後、静かに第1主題を回想してこの楽章は幕を閉じます。
続く第2楽章冒頭の堂々たる第1主題も実に立派。第1楽章の終わりからこのあたり、「チェリビダッケで聞かせろ!」と思わず言いたくなります。
第2楽章では中間部のスケルツォ的な部分が何とも言えず素敵です。軽やかに、そうですね、天使たちが天上で飛び舞い戯れるさま(自分でも何言ってるかわかりませんが)とでもいうのか。ブルックナーのスケルツォ的でもあります。切れ目なく続く第3楽章とのつなぎ部分、平行3度(10度)的な弦と木管の動きが出てくるところもいい。普通全音階上を平行移動すれば長3度と短3度が入り混じりますが、ここではほとんど平行長3度で動くのが効果をあげています。
第3楽章はどこか懐かしい日本情緒ただよう緩叙楽章です。このメロディーは菅原が作曲した慶応義塾のカレッジソング「丘の上」(私は聞いたことないです)に良く似た感じだそうですね。5音音階の大正浪漫的? でシンプルだが美しい旋律を弦楽中心に優美に歌い上げます。和魂洋才の世界といいましょうか。2回にわたって現れる変奏部分の雅楽趣味もちょっとユーモラス、でも典雅で面白いと思います。
第4楽章のアレグロがこの曲の白眉といえるでしょう。頭から出る弦楽合奏のメロディー、この躍動感は何事でしょうか。
教会旋法あるいはジャズ、ポピュラー音楽理論でいう
モード手法で書かれた旋律はツボにはまると特有の浮遊感覚、宙吊り感をかもし出します。かろやかに駈けるこの旋律と、これを半音階的に崩したような第2の旋律が何度も自在に変化しながら繰り返されます。途中のトランペットが主導する金管中心のつなぎもカッコいい限りです。
やがて曲はゆっくりとテンポを落とします。クリスチャン菅原明朗の、敬虔な祈りの世界がここにあります。ろくに先祖の墓参りもしない不信心な私でも厳粛な気持ちになる、感動的なコーダです。
「交響楽ホ調」は1953年(昭和28年)に作曲、放送初演されました。日本のクラシック系音楽の作曲の世界は前衛、アヴァンギャルド、12音音階全盛の時代です。この翌年に発表された伊福部昭の「シンフォニア・タプカーラ」ですら時代遅れと酷評されたのですから、「交響楽ホ調」など化石のような珍品と受けとめられたのではないでしょうか。しかし菅原は孤高を貫き、最晩年まで自分の信じた音楽を書き続けました。
本名徹次/オーケストラ・ニッポニカが2004年にこのすばらしい曲を再演し、ライブ録音を残してくれたことに感謝したい、そして多くの人に聞いてもらいたい、多くのオーケストラに演奏してもらいたいと思うのです。



